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● 土用の丑の日でも
日曜日の夜は、夫婦で買出しに行くのは、いつもの出来事。
それも決まって、あのおっちゃんがいる店だ。
何か夕食になるものがないかと思って、行ってみたら、今日は土用の丑の日。
思いっきり、うなぎが並んでいて、その側におっちゃんが立っていた。
● 勢いのある声
「奥さん!もう、おしまいだよ。ここにあるだけ!もう、おしまい!」
いつものごとく、威勢のよいおっちゃんの声。
その声に引き寄せられて、私はうなぎ売り場に近寄った。
「これ、見てよ!これ、郷ひろみだから!」
何のことだか、分からないと思っていると、おっちゃんがすかさずに言った。
「郷ひろみって、アチチ♪だろ。だから、アチチなの!」
「ニコ」とした笑顔に、その場にいたお客さんは、「フフフ」と笑う声がした。
● うなぎを伝える
「これは、裏で炭火で焼いているので、すぐに食べられるよ」
「今日はね、美味しいうなぎの見方を教えるよ。このうなぎの盛り上がり方を見て!
これが最高のうなぎの証。こういうのをを食べなきゃダメだよ。」
「温めなくていいから!せっかく炭火で焼いているのに、その味が逃げちゃうよ!」
もう、次から次へと、うなぎのことを語りつくす。
でも、その話を聞いていると、とても心地よく、熱意を感じてしまうものだった。
● これがうなぎだ!
「おっちゃん!うなぎを1つちょうだい!」と私が言うと、
入念にその売り場にあったものを眺めて、
「これ、最高!」というのを選び出してくれた。
その目線は、思わず獲物を探すような凄みがあった。
「いいかい、兄ちゃん。これはタレを4回塗って焼いたものだ。これ以外にない!」
おっちゃんが選び出してくれた「うなぎ」を買うことにした。
妻には、「自分でお金を出すから、購入させて」とお願いして。
そう言いながら、買い物カゴに入れようとしたときに、おっちゃんの顔色が変わった。
● おっちゃんの気持ち
「兄ちゃん、ちょっと悪い。カゴの中に入れないでほしい」
私の頭の中が真っ白になるほど、何を言っているのかが分からなかった。
購入するものを、なぜカゴに入れてはいけないのかと。
おっちゃんは静かに言った。
「これは熱いから、他の魚や商品と一緒にすると、それが傷んじゃうからね。
別の袋に入れてあげるから、手で持っていってくれる?」
その一言で、私はおっちゃんの「魚屋としての熱い気持ち」を
感じないわけにはいかなかった。
● 走るおっちゃん
うなぎを手に持って、袋のあるところまで走って、
袋に入れたウナギを手渡してくれた。
「ありがとうね!」
おっちゃんのいつもの笑顔と一緒に、うなぎを受け取り、売り場を後にした。
「これで、もうおしまいだよ!叶姉妹だよ!」
おっちゃんのギャグが店内中で聞こえてきた。
● 商品を売るのか、思いを売るのか
土用の丑の日という、魚屋では大きなイベントであり、売り上げが上がる日。
テレビを見ていても、うなぎのCMがどんどん目に飛び込んでくる。
美味しいうなぎ、熱々のうなぎ。いろんなもので購入意欲を刺激する。
でも、購入した後のことまで考える人はどれだけいるのだろう。
売りっぱなしが多い世の中。
おっちゃんは「想い」と一緒に食べてほしいのではないか。
想い続けているからこそ、そんな手間なことを言うのではないだろうか
私は、様々なことを考えていた。
● あなたは何を売っているのか
おっちゃんが言っていたこと。
「おれ、学校ではバカだったけど、こういうことは一切教えてくれなかったよ」
その言葉には、重い何かがあった。
何かを販売して、生計を立てていれば、
どうしても利益に目がいってしまうことがある。
でも、それより大切なものを、おっちゃんはいつも教えてくれる。
おっちゃんがいつも笑顔でその売り場に立って、会話ができること。
これが私にとっての幸せであり、学びの場でもある。
もし、あなたが何かを売る人であれば、その商品と一緒に何を販売しますか?
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